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第1部 実践編

第1章 機材の必要構成

 まずは、撮影に必要な機材とその取り扱いについて述べてみたいと思います。コンピュータを使用する場合の機材構成は、それだけでかなりの分量となるため、別章を設けてそこで解説します。

撮影所の条件

 撮影台設置場所の最重要な条件は、電源の容量です。最低15Aは欲しいでしょうか。さらに10Aとか余裕があれば、冷暖房完備の夢の撮影現場ができるところですが・・。(笑)
 もう一つ重要な条件として、収容人数があります。最低3名は収容できないと大変です。さらに2名程度の就寝できるスペースがあると言うことはありません1

撮影台

コピースタンドの場合

 簡単な撮影なら、写真用のコピースタンドがあれば十分です。(図)
 アニメーションの撮影は、単純な写真複写よりも要求水準が高くなりますので、サイズは余裕のあるものを選んでください。あまりコンパクトなのを選ぶと、原稿引きなどで泣きを見ます。LPL社からは、やたら安くて大きいモデルが発売されていますが(図)、これは首が傾いているため非常に扱いづらく薦められません。首が傾くと、カメラの距離を調整するたびにフレームが柱に近くなったり遠くなったりして、タップを頻繁に貼り替えなければならなくなってしまい、特に透過光やマルチプレーンのような多段撮影台を組む際に大変な障害になってしまいます。
 また、ライトアームは、ケチらず専用品を使ったほうがいいようです。
これは当会のコピースタンド。コンパクトで頑丈、ネジで頭が上下できてねじれが生じないもの・・・と欲張った結果、ずいぶん上等なものになってしまいました。奥に見えるのは何故か2段重ねされたイメージスキャナ。
これはLPLの格安コピースタンド1812型。首が傾いていて扱いづらい。

専用撮影台を組む場合

 パン、透過光のような高度な撮影を日常的に使う場合は、専用に撮影台を組んだほうがよくなります。図は先日まで当会で使用していた撮影台です。専用台には各サークルとも工夫を凝らしており、実に多様なモデルが存在します。
かつて当会で使用されていた撮影台。横方向3段、縦移動も可能。NEC 9801で制御していました。

設置場所

 絶対に夜間しか撮影しないサークルならいいのですが2、昼間にも撮影する場合は、原稿設置面に日光の影響が出ない場所を選ぶ必要があります。でも、光量制御にシビアな透過光撮影などを行わない限り、全暗にするほどこだわる必要もないでしょう。強烈な電球照明の下では、窓の光の程度なら、相対的に1%以下にかき消されてしまうからです。
 撮影作業は、立って行うほうが効率がいいようです。よって、原稿設置面が腰の高さに来るようなセッティングが望ましいでしょうか。
 撮影台では、大量の電気器具を使用します。そのため、撮影台付近には6連テーブルタップなどの装備が必要です。1個所のコンセントでは電源容量をオーバーしてしまう場合には、さらに別のコンセントからも電源を調達しなければなりません。
 欲を言うなら、風通しも考慮に入れたいところです。冬は電球が暖房代わりになるのでいいのですが、夏はどうしようもありませんから・・・。3

カメラ

8ミリ映画カメラ

 8ミリ映画カメラには大きく2つの系統があります。富士フィルムの「シングル8」と、コダックの「スーパー8」です。国内でフィルムを入手・現像するためには前者の「シングル8」を選ぶ必要があります。
 コマ撮りのできる機種はさらに限られてきますが、アマチュアアニメーションの撮影に使えるカメラといえば、富士ZC-1000と相場が決まっています。他の下位機種では、多重露光の制御がやりにくくて仕方がないからです。そのためZC-1000こそは8ミリアニメの「基本にして究極」のカメラといわれますが、その高性能と希少価値ゆえに、中古市場では20万円を超す値段で取り引きされています。
8ミリ映画カメラの最高機種、ZC-1000。アニメーションにおいては基本にして究極の1台。

ビデオカメラ

(当会はあまりビデオカメラ運用のキャリアがないので、簡単なところをさらっと述べておくだけにとどめます。)
 単体での録画、コンピュータの併用を問わず、複写に使用されるカメラ一般としては、

 この4点を手動設定またはロックできることが最重要な条件です。
 この条件は結構マニアックなものらしく、中古市場を漁ってみても、なかなか条件を満たす機種は見つかりません。新品で探すとハイエンド機種に集中してしまい、15万を超すお値段に頭を抱えてしまうのです・・・。ううむ。 キャノンLX-1のような立派なカメラがあれば、もう何も言うことはないのですが・・・ねぇ。
キャノンの超高性能Hi8カメラ、LX-1。
なんとキャノンの一眼レフ・EOSシリーズのレンズが使えるという優れもの。手動でズームが可能なあたりも魅力。現在は後継機種のminiDVカメラXL-1というモデルが登場しています。

 あ、テープは全然使用しませんから、ビデオ端子さえ付いていればVHS-Cでもベータマックスでも何でも構いません。S端子があると言うことはありませんね。そうそう、以上の4点とビデオ端子さえ揃っているなら、いわゆるデジカメだってOKです。現状では多分20万超えてしまいますけど・・。
 併用するコンピュータについては、別章にて説明しましょう。

フィルム

 市場に存在するシングル8フィルムには、6つのバリエーションがあります。

 アニメーションに使用できるフィルムは、ずばり「富士R-25 アフレコ用」と「富士RT-200アフレコ用」、これしかありません。
 R-25は高画質タイプですが、感度がおそろしく低く4、照明の熱量とかいろいろ大変になってきます。
 RT-200は高感度タイプで、わずかな照明でも鮮明な画像を得ることができます。しかし発色の鮮やかさ、粒状性(ザラつき具合)の細かさにおいて、R-25に及びません。
 そういうわけで、ちょっとした作品にはRT-200、正式な作品を狙うならばR-25を使うべきでしょう。
店頭に積まれた8ミリフィルム。赤がR25で、左から無音、アフレコ用、同時録音用。

照明

 アニメーション撮影の照明には、写真用電球の「モノクロ用・スポット型」を使用します。お店には「カラー用」というのも売られていますが、これは特に色に厳密な複写用であり、モノクロ用に比して寿命がわずか10分の1しかありません。よって、私達はこのモノクロ用に色変換フィルターを併用して撮影を行います。
 8ミリフィルムR-25を使用する場合は、1000W程度の照明が必要になります。被写界深度の安全性やレンズの画質を考慮すると、照明は明るければ明るいほど都合がいいのですが、あまり強くするとセルの黒い部分が曲がり始めたりして、トラブルの元凶となりかねません。当会では従来2000W、移転してから1600Wを使用していましたが、これは一般サークルに比べるとかなり強力な部類に入ります。
 RT-200を使用する場合は、単純計算で8分の1の照明で済むのですが、Tタイプのフィルムなら色変換フィルターが不要になるため、さらに照明を削減できます。欲を出して絞りを絞り込んでも、300Wもあればもう十分といえるでしょうか。
 ビデオカメラを使用する場合も、ほぼRT-200と同様です。当会ではコピースタンドのデザイン上、150W×4灯を使用していますが、もっと減らしても何の問題もないでしょう。
500W型写真電球・モノクロ用スポット型。

その他小道具

 その他必要な小道具は以下のようなものがあります。

上の3つは、8ミリフィルムの場合にのみ必要になります。特にケーブルレリーズは、高級で頑丈な品物を選んでください。数枚シャッターを切ればいいだけの写真と異なり、アニメーションではフィルム一本あたり何千回もシャッターを切らなければならないので、特別な視点からの品選びが必要になるのです。いつぞやZ450を使用したときは、かなりシャッターが重いため、ケーブルが骨折してしまったりチューブの接合部が裂けてしまったりするといった信じられない故障が続発して参りました。どこかの会社の「ブラックレリーズ」という商品は、ストロークの調整もできてなかなか便利でした。ZC-1000の場合は、電子リモートコントローラを使うことができます。シャッターが軽くて指にもやさしいのでお勧めです。

 8ミリ映画カメラの場合、1メートル以内の近距離では焦点合わせができません。そのためフィルター枠にこのクローズアップレンズを装着して補正を行います。ビデオカメラは高性能レンズにより近距離でもOKということになっていますが、広告スペックだけの話であることも多いようで5、コピースタンド上で最適な距離と倍率に合わせてみると結局クローズアップレンズの助けが必要になることも少なくありません。数字が大きいほど近距離向けになります。マルチプレーンや透過光の時には台が高くなることもあるので、一応全部持っておいたほうがよいでしょうか。

これらは、背景とセルの浮き上がりによる影の発生を防止するために使います。買ったばかりの無反射ガラスは、切断面が鋭利なままなので、すぐにビニルテープ等でカバーしてやって下さい。サイズは、フレームサイズをカバーできる程度の通常用と、大判原稿をカバーできる大型ガラスと2種そろえておくと便利でしょう。
無反射ガラス。新品はとてもよく切れます。

 以上のグッズは、あったらいいなという程度のものですが、あると結構重宝します。
 手袋は写真用品の「静電気防止手袋」というのが特に便利です。手袋そのものがレンズ清掃クロスでできており、静電気を除去する効果もあります。特にセルを取り扱うときには絶大な威力を発揮するので、一人分は揃えておきたいですね。静電気除去モップは、OA用品として流通しています。これもセルの掃除に便利です。ち
 リムーバーは、アニメカラー向けの溶剤で、アニメカラーと一緒に流通しているはずです。強力な照明にさらしてみてはじめてセルの汚れに気付くこともよくあるので、撮影現場にも常備しておきたいアイテムです。
 ブロアーは、埃を吹き飛ばすための空気ポンプみたいなものです。大型のものを使えば結構な風圧が得られますが、手っ取り早くするためには、ブロアー缶を使うのがベストです。手でシュポシュポとやっているのとは桁違いの風圧が獲られ、少々しつこい埃でも一発で除去できます。ただ、環境破壊が心配なのですが・・・非公害フロンとは書いてあるものの・・ね え。

 これは当会のオリジナルです。ジャックを取り付けたキーボードとペアで使うと、リターンキーの代わりになるというおバカなグッズです。ジャックの仕様はZC-1000のリモート端子と同じ物にしてあります。
 改造されるキーボードは、スイッチがフィルムスイッチではなくメカニカルスイッチである必要があります。半田が付きませんから。
おバカなアイテム・フットスイッチとメーカー保証を受けられなくなったキーボード。でも結構便利だったりします。

人員

 能率的な撮影のためには、基本的に3名の構成がベストでしょう。この構成では、1名がセルの送出と回収、もう1名がセルの撮影台への設置、もう1名がタイムシートの読み上げとシャッター操作に携わります。
 フットスイッチが使える場合は、シャッター操作をセルの設置の係が行えるので、2名構成または最低1名でも撮影を行うことができます。が、一人では単純作業で気が滅入る上に、チェック係がいなくなるとミスが続出するのであまりおすすめはできません。

入手には

 コピースタンド、ガラス、フィルムなどの物品は、東京なら新宿、池袋にあるヨドバシ、サクラヤなどの大型写真用品店で大抵が入手可能です。
 8ミリ映画カメラの入手には、中古カメラ店を回るしかありません。新宿東口・大ガード前の「カメラのきむら」では、いつでも8ミリの中古在庫があり入手は確実です。・・・が、今更8ミリを買うよりは、西口電気街に行ってパソコンを漁るほうがお買い得でしょうね〜。

 8ミリフィルムの現像は、フジフィルム系列の写真店ならどこでも受け付けてくれます。でも、何日かかるかはまったくわかりません。例えば、試しに早大隣の写真店に出したときは3週間待ちになりました。(!!)
 ヨドバシなどでは1週間程度と聞きますが、さらに急ぐ場合は調布市にある(京王線柴崎駅下車)フジフィルムの営業所に出すのが一番です。現像所が大阪6にあるため、柴崎営業所からは毎週火・木・土にまとめて発送されるようになっています。
 輸送に各1日、現像に2日かかるので、最短なら、火曜昼に出して金曜昼に受け取ることができます。それ以外だと土日が入るので、少々日数がかかります。


※1:そういう状況を招くスケジューリング自体に問題があるとは考えないのか?(笑)
※2:それはうちのことか?
※3:人間、皮膚までは脱げないのです。
※4:最近の写真の標準であるISO400と比較して感度16分の1!同じものを撮るのに、8ミリ映画では写真の16倍の光量を必要とするのです。
※5:例えば接写モードは最大倍率時に限る、など。まだ首が上下できるコピースタンドなら対処できなくもないが、それではズームが禁じ手になってしまいます。高さ固定の枠型撮影台ともなると・・・。
※6:最悪の場合、新幹線で大阪に飛んで即日現像という最終手段がある、と冗談では言いますが、そこまで切羽詰まった状況になった場合、1回休みで出品を遅らせるほうが、クオリティなどの面からして総合的に正解であるように思います。ちなみに、大阪に宅急便という伝説もありますが、フジフィルム側はやめてほしいと言っていました。