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第3章 通常の撮影手順

 ここからは、カット毎に繰り返されるルーチンワークに入ります。

タイムシートを読んでみよう

 まず、みんなでタイムシートを確認してみましょう。途中からセルが増える場合や、フェード処理が入る場合、またセルの送出順が突然不規則になる場合があれば、全員がそのタイミングを頭に叩き込み、また場合によってはセルに付箋紙を付けたり、タイムシートに目印を付けたりして対策します。
タイムシート。左欄は作画上のメモなので気にしないで。

 下図のサンプルは、「ソの夢」のカット48のものです。

(印刷版の場合は巻末に拡大図が付きます)
 Aセルは動きませんので、そこは気にしないでBCセルのみを見てください。Bセルは鍵盤、Cセルは指先を意味しています。
 最初のコマでB3とC3を重ね2コマ撮り、次にB2とC2を重ね2コマ撮ります。これは、手と鍵盤が同時に下がる動作を意味しています。
 7コマ目からは鍵盤が動かず、手(Cセル)だけが力を緩めC4からC8まで動きます。
 さらに、右端を見ると、カメラ指定のところに「O.L.」という指定があります。これは、カット48の最後から49の最初にかけて、オーバーラップ(画像の合成比率をスライドさせて入れ替える方法)という特殊効果処理を行うことを意味しています。
 以上の手順をみんなで確認したら、撮影の本番に入りましょう。

フレームを合わせてみよう

 まず、台にレイアウト用紙を載せてみましょう。フレームなんていつも一緒じゃん、なんてナメてはいけません。時々、作画上のズレが発生したからといって、フレーム側を描き直す奴がいるからです1 。また知らぬ間にカメラが傾いているような事故も起こり得るので、カット毎にファインダーを確認するのは習慣にした方が安全です。本当に合っているのか心配な場合は、例によってレイアウトの中心に×印をつけて、ズームインさせて検証しましょう。

背景を固定してみよう

 レイアウト用紙と比較しながら、背景を固定します。通常の背景ならば、そのまま画鋲かガムテープで固定してしまいます。プロの撮影台では画鋲だと聞きますが、コピースタンドの化粧板に画鋲を刺すわけにもいかないので、そういう場合は布テープを使います。セロテープやビニルテープでは、固定力が不足して、何枚も動画を重ねて外しているうちにズレてしまいます。クラフトテープでは剥がせなくなってしまうので×です。

セルを固定してみよう

 セル(素材が本当のセルではなくても、面倒なので、当会では一律「セル」と呼称しています)のを1枚目を載せてみます。そして無反射ガラスを上から載せ、圧迫します。ここで、セルが背景から浮き上がっていないかよく確認してください。背景には、ある程度の凹凸の発生が避けられないためです。
 照明を4方向から当てていれば、ある程度までは影を消してしまうことができますが、それでも消しきれない場合は、背景の後ろにちり紙を詰めるなどして調整します。(でも、あっちに詰めればこっちに影が出たりして、なかなかうまくいかないものです。止め絵でもない限り、ある程度の割り切りは必要でしょう。)
 セルを重ねる場合、下の層からAセル、Bセルの順でセルを重ねます。セルは完全な透明ではないので、重ねると発色が変化してしまいます。そのため、カットの途中でセルの層が増える場合、当該層が出現するまでの間は、ダミーの白紙セルを入れて撮影します。これを、「空(から)セル」と呼びます。

最終確認をしてみよう

 それでは、最後にファインダーを覗いてみましょう。目立つゴミ、照明の映り込みはありませんか?セルはちゃんと端まで着色されていますか?そして、ピントや露出リングが動いていませんか?
 8ミリの頃に使っていた最終確認リストから一般的なところを抜粋してみましょう。

  1. フレームは合っているか?
  2. 照明は全部点灯しているか?

  3. (手をひっかけて1灯が消えていたりしませんか?)
  4. シャッター開角度レバーは全開しているか?

  5. (特にフェード系処理のあとは要注意です。)
  6. シャッターは「前進」になっているか?

  7. (これはZC-1000の場合。多重露光処理の後は要注意です。)
  8. コマ数カウンターはリセットされているか?

  9. (これもZC-1000の場合。リセットを忘れると、多重露光で泣きます。)
  10. フィルターは入っているか?

  11. (これは特殊効果フィルターや着色フィルターを使った後の注意。)
  12. 絞りは合っているか?

  13. (これも露出倍数の変化するフィルターを使う前後の注意。)
  14. フィルムは残っているか?

  15. (これは重要!!フィルムが入っていなくてもカウンターは回るので、特に終端付近では、フィルム軸の回転を確認してください。)

以上を点検すれば、撮影の準備は完了です。

セルの供出と回収

 ここが、撮影の所要時間に一番影響するプロセスです。
 セル出し係の仕事は単純、タイムシートの番号通りにセルを手渡し、次のセルを用意し、戻って来たセルを収納するだけです。しかし、この係には番号を確認するという重大な任務が付随します。番号を間違えたら、動画交換係かシャッター係が気付くか、さもなくばリテイク(やりなおし)です。残りの2人も一応チェックの責任がありますが、7割がたはセル出しの係に任せきりになっていると思いますので、心してかかってください。
 タイムシート上のセル番号は、常に順番に並んでいるとは限りません。1,2,5,3,4,6などという不規則な並びかたになっていることも珍しくありませんし、積まれたセルの方もまた順番に並んでいるとは限りません。欠番があってみたり、欠番のはずのセルが何故か実在してみたり、ほとんど悪意の罠としか思えないようなミス誘発要素が、撮影現場には山ほど存在します。常に疑いの眼を忘れないようにしてください。
 また、セルの簡単な掃除も同時に行ってください。特に、繰り返しの多いカットでは静電気が蓄積するので、静電気除去ブラシとかで埃を払う必要があります。

もしミスが生じたら

 最近当会ではコンピュータの導入に伴い、撮影中にミスが生じてもミスのコマを記録したうえでそのまま続行してしまうという新方式が導入されました。これで後にミス箇所のみを削ってしまうという強引な方法ですが、この場合にはミスしたコマの直後に2コマか3コマ目印を入れるようにします。
 目印を入れる際は、[ミス後の続行開始コマ数]と[本来のコマ数]の奇数偶数を一致させます。というのは、長時間のカットになってくるとコマ数と秒数の換算が大変になり、シャッターの切り損ないなどを判別する手段が奇数偶数のチェックしかなくなってしまうためです。
 目印を入れたからといって、1コマだけではサブリミナル映像になりかねないし、2コマだからといって確実にみえるという保証はありません。何十ものカットを撮っていたら目印だけでは見逃して当然になってしまうので、ミスの場合は確実に記録を取るようにしてください。

カットが終わったら

 カットが終わったら、きれいにセルを整理してからカット袋に収納します。順番が乱れていると、後日の整理やリテイクの際に大変面倒です。
 また、注意事項があった場合、撮影日誌やタイムシートにメモしておきます。撮影日誌を用意すると、リテイクの場合だけでなく、他のカットの参考にもなり大変有利です。
 編集が入る可能性がある場合は、カメラを塞いで5コマほどシャッターを切っておきます。後日の編集の際に、探し物を簡便にするための処置です。


※1:カット袋またはレイアウト用紙に注意事項として明記するのは作画側の当然の義務です。これを怠る奴は銃殺です。

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