[↑目次へ]

第5章 多重露出と光学効果

 シャッター開角度レバーによる光量制御と巻き戻しによる多重露光は、場面転換やイメージシーン、さらに半透明物体や発光体などの表現に威力を発揮します。
 この光学テクニックを駆使すれば、セルや背景の着色段階では予想もできない高度な映像表現が可能になります。さらに光学的アクセントとなる特殊効果フィルターについても簡単に述べてみたいと思います。
 ビデオ+コンピュータの場合、これらの効果のほとんどはコンピュータ上の編集段階でまかなうことになります。そちらの手順も、Adobe Premiereの画面をサンプルに説明してみましょう。

フィルムと光の足し算

 フィルムには、ビデオテープと異なり何度も光を当てて撮影することができます1。フィルムへの多重露出をすると、2回目にフィルムに記録された画像は、前回の露光を消さないで、明るくなる方へ光量を加算していきます。あまり何度もやると、出来上がりは真っ白になってしまいます。うまくやれば、分身の術でも心霊写真でも作れてしまいます。

コンピュータの場合

 コンピュータで編集する場合、Adobe Premiereの[透明度設定]機能を使うことにより、類似の効果を得ることができます。重ねたい映像を3番目以降のトラックに載せ、透明度のキーを「画面」にすると、フィルムと同様な多重露出効果を得ることができます。
 MediaStudio5の場合は「オーバーレイオプション」に同様の設定項目があります。
Premiereの透明度設定ダイアログ。
この設定だと「スーパー」になる。

フェードイン、アウトとオーバーラップ

 黒い画面から徐々に画像が浮かびあがってくる表現、また画像が黒に沈んでいく暗転効果をフェードイン、フェードアウトと呼びます。

 さて、これを実現するにはフィルムに当たる光量を徐々に減らせばいいのですが、絞りを動かしただけでは、被写界深度が動いてしまううえ、最終的に露光量をゼロにすることができません。これでは困るので、映画カメラにはフェードイン・アウト専用のレバーが装備されています。
 例えば1秒でフェードインする場合には、24コマかけてこのレバーを全閉から全開に動かしていきます。ZC-1000の場合には、このレバーに75%,50%,25%の目印が付いているので、各4半区を6コマかけて動かせばいいわけです・・・が、そんなの面倒なので、大抵は動画に合わせて2コマ毎、3コマ毎に開閉しています。これも、撮影の際にはタイムシートに目盛り位置を全部書き込んでおきましょう。
 開放付近では目盛り感覚が非常に狭くなっており、このあたりを基準にすると、指先では1目盛りあたり6分割程度が限界となってきます。これを各3コマで撮影するならば、6×4×3=72K、すなわち3秒あたりがフェード処理の持続限度といえるでしょう。

 さて、一度画像が暗く消えるフェードアウト処理で撮影てからフィルムを巻き戻し、フェードアウト開始位置から同じタイミングで今度は明るくなるフェードイン撮影を行うと、画像がすり替わるオーバーラップ(OL)効果になります。
 OL撮影では、フェードアウト(FO)側が90%ならフェードイン側が10%、FOが60%ならFIが40%になるように正確に撮影しないと、途中で画面が明滅して見苦しいことになります。時々、開角度が目盛り通りになっていない老朽機もいるようなので、一応本当に50%+50%が100%になっているかテストしておいた方がいいでしょう。
 ソの夢で多用されている真っ白な画面からの転換も、白画面とのオーバーラップで作成されています。
 以下に、オーバーラップ撮影の手順を示します。

  1. 最初は通常に撮影する

  2. オーバーラップに入るまでの撮影は普通に行います。
  3. カウンター値を確認する

  4. オーバーラップが始まるコマが来たら、タイムシートとコマ数が合っているかタイムシートと比較してみます。
     もし、カット間のオーバーラップの場合、ここでカウンターをゼロにリセットしてしまいます。理由は、単純に巻き戻しのカウントが簡単になるからです。
  5. フェードアウト撮影を行う

  6.  タイムシートのメモに従い、2コマ毎や3コマ毎にフェードレバーを少しずつ動かしていきます。全閉付近は移動幅がかなり大きくなるので、最後の1/4の区画は結構大胆に操作する必要があります。
     もし動かし過ぎに気づいたりした場合は・・・何もなかったような顔をしてそのままのリズムで続けてしまうのがベストです。(笑)
     下手に辻褄を合わせようとすると変化率が不自然なグラフを描いてしまいますから、多少OLのコマ数が不足しようと構わずに強行するほうが自然です。
  7. 巻き戻し操作を行う

  8.  画像Aの最後に来たら、ZC-1000の場合は逆転撮影にスイッチを入れ、シャッター全閉のままカウンター998前後まで巻き戻します。そして必ず正転撮影にスイッチを戻し、カウント000までフィルムを進めます。これは、正転方向に戻し忘れないための安全策です。
  9. フェードイン撮影を行う

  10.  前回の減衰率と同じ率で徐々に光を強くしてやれば、オーバーラップの完成です。指が慣れてしまえば何でもない簡単な効果なのですが、本当の問題は、ここで次のカットにミスが生じると前のカットまで巻き添えでリテイクになってしまうことだったりします。「ソの夢」で6カット近い連続OLがあったのですが、どうしても最後までノーミスで突破できなかったため、仕方なくコンテを変更して逃げてしまいました。

コンピュータの場合

 オーバーラップには2つ方法があります。単純な方法では、トラックAとトラックBの間の効果トラックに「クロスディゾルブ」をセットすればOKですが、複雑な効果を狙う場合は、重ねる映像を3番目のトラック以降に配置して、下にあるグラフをいじって透明度の変化を設定します。この場合、「透明度設定」は変更の必要はありません。
Premiereでオーバーラップする2つの方法。
トラックA-B間はクロスディゾルブで、B-S1間はS1側の透明度調整でOLを実現する。MediaStudioなら「クロスフェード」。

ケーススタディ:画面の一部だけを入れ替える効果

 一般に、オーバーラップはカット間の転換に使われますが、精度を保てば、同一カット内である物体だけが消えたり現れたりするという面白い効果を狙うことができます。以下に、オーバーラップのバリエーションを示してみましょう。

 これは、指先の精度勝負です。ピアノがズレないように注意しながら、人物Aを載せ、フェードアウトをかけながら1回目の撮影を行い、巻き戻してから、今度は人物Bを載せてフェードイン撮影を行います。すると、アクション中に人物が入れ替わるという不思議な効果を得ることができます。操作精度が悪いと露光量の合計が変動してしまい、ピアノが明滅してしまいますが、成功すれば人物だけがごく自然に入れ替わる不思議な映像になります。

ダブらしによる半透明物体の表現

 エアブラシなどの特殊効果の場合を除き、基本的にセルは不透明であり、透ける物体を表現することはできません2。そういう場合、あるセルが写っているものを1回、写っていないものを1回撮影して合成すると、半透明な物体を表現することができます。
 操作は単純で、シャッター開角度を50%に固定して二重撮影するだけです。透明度をいじるときには1回目30%、2回目70%のように比率を変えて撮影します。オーバーラップと操作はほぼ一緒なのですが、異なるのは演出上の使い方です。

 ダブらしのバリエーションとして、影の表現があります。これは、影になるところに黒塗りのセルを設置して一度50%前後で撮影し、もう一度は影なしで撮影するというもので、こうすると影のところだけ明るさが周囲の半分になります。
 ほかに煙などもやはりダブらしで撮影します。しかし窓などの光学的物体に関しては話が別で、こちらは光を加算する「スーパー」撮影で対処します。
 後述の「スーパー」との違いは、あるセルの存在が、背後の存在を遮っている点だと言えるでしょうか。「スーパー」では、背後の存在は100%の明るさで写した上で、さらにその上に光を重ねるという点で、オーバーラップやダブらしとは別系統の光学技術に属しています。

ケーススタディ:ダブラシとOLによる心象表現

 ソの夢のカット48前後は、オーバーラップとダブらしを駆使して心と時間の不思議な転換を描いています。本当はカット内OLとカット間OLのどちらでもない分類不能な映像なのですが、作画の都合もありますし、各々の映像は違うカットであるという扱いにしました。
 まずカット47-48はただのOLです。48-49では、48の露光量を160Kからの1秒間で100%から50%に下げ、同時にピアノの指先を0%から50%に引き上げ、少女の顔に半分重なってピアノが浮かび上がるようにします。
 48の少女はそのまま348Kまで50%で撮り、その後1秒間で0%まで引き下げます。
 262Kで49の指先が50の年上の少女に半透明のままで切り替わり、348Kより1秒間で50の少女は濃度50%から100%に引き上げられ、48の少女が完全に消えます。
 50と51は、同じ背景で人物だけを入れ替えた物で、これをオーバーラップさせるとピアノは普通に映っているのに人物だけがオーバーラップするという実に不思議な映像を作ることが出来ます。
 実にややこしい設計になっていますが、これも足し算さえちゃんとできるならば、あと必要なのは根気と指先の精度だけです。

スーパー(過剰露光)による反射の表現

 これは、ダブらし撮影がシャッター開角度制限によって映像を相互に光量制限しているのに対して、元の映像の光量はそのままに、重ねる側の光量をそのまま足してしまう方式です。最もポピュラーな使い方は、窓の映り込みでしょうか。
 図は、コンピュータ作品ですが原理は一緒なので、「東京の空の下」からのサンプルを出します。8ミリでの手順としては、まずベースになる映像をそのまま100%の明るさで撮影してから巻き戻し、次の映像をシャッター開角度25%前後で撮影すればOKです。
 コンピュータの場合なら、透明度設定を「画面」にして、下部のグラフをいじればOKです。
こちらがベースの画像。背景引きのおまけ付き。
こちらが映り込み。窓枠の位置を正確に。黒素材にいい加減なものを使うと、映り込み以外の部分まで明るくなってしまうので注意。黒画用紙とかよりのポスターカラーが一番締まるようです。
出来上がり。
本番では、Premiereがまだなかったので、PicturePublisher6とVisualTESTという強引な組み合わせで解決しています。誰かもっと早く教えてくれたら・・・。

透過光による発光体の表現

 これは、原理的にはスーパーの亜種と言えるでしょうか。通常のフィルム上の白よりも明るい発色を求める場合に、切り抜いた黒マスクの背後から強力な照明を当てて、本当の発光体を写してしまうのです。
 と、原理は単純ですが、本当に美しい発光を得るためには「にじみ」等による周辺への効果が重要であり、カメラ側に光学フィルターをセットすることが必要です。にじみがなければ、透過光もただの蛍光色にしか見えません。このあたりの表現は、まだコンピュータ単体には真似できるものではなく、光学細工の腕の見せ所となります。
 透過光は非常にアナログな領域であり、またカメラのファインダーがいまいち当てにならないので、とにかくトライ&エラーによるデータ蓄積しかありません。

透過光用の撮影台セッティング

 透過光撮影のためには、原稿の下からも照明を当てられるような2層型の撮影台を組む必要があります。
 ガラスの原稿台を適度な高さに固定し、その下に、透過撮影用のランプと拡散用のアルミホイルを設置します。うまくアルミを設置しないと、画面の端まで照明が行き渡りません。また、あまり光が漏れると発光しない部分まで明るさが変動してしまうので、周辺から光が漏れないように適度な遮光が必要です。
 下がセットできたら、その上に非発光部分を普通に撮影するための照明をセットします。上部のセッティングは通常通りでいいでしょう。

レーザーやネオンの類の発光体

 この手の発光体に重要なのは、色とにじみです。私の代ではSFモノの経験がないので一般論を書いておきましょう。発光部分を切り抜いた黒画用紙に色セロハンを貼り、後ろから思い切り照明を当てればOKということになっています。あとは各自でデータを取ってみてください。

 コンピュータでこれを再現するためには、発光体と、それをぼかした画像を用意して重ねることになります。困った事に、これだけはPremiereでは対応できません。機能としては装備されているのですが、まあ使ってみればわかると思います。
 コンピューターを使えばレーザーなどの単純な発光体は簡単に再現できるのですが、ガラスに整髪油を引くようなアナログ小技を再現するのはなかなか難しいようです。特に次項のような特殊光学フィルターは、まだアナログ断然有利の状況です。
これは93年の「うごうご3人娘」。

木漏れ日の類の光条付き発光体

 これは、「クロス」フィルターを使用します。クロスフィルターとは表面に細かいスジが彫ってあるガラス板で、この模様により十文字、雪型、8方向の光条を発生させることができます。
 カメラのファインダーではフィルムよりも大げさに効果が出るので、フィルター設定は、やり過ぎな位にやってしまってよいでしょう。
これは95年冬、研連30回オープニングに使用された「サンタクロース・プロジェクト」。
画面に無数の針穴をあけて裏から光を当てています。撮影技術者から企画したという変な作品・・。

 34回研連OPフィルムでは、デジタル彩色画像とアナログ透過光の合成を行っています。こちらの透過光は、かなり大き目の穴をランダムに開けた2枚の黒画用紙を重ねて複雑に揺らすことにより、ランダムな発光パターンを実現しています。
 撮影時はコマ撮りではなく、手で穴開き紙を揺らしながらリアルタイムにビデオテープに録画して、特に見栄えのいいところだけをコンピュータに取り込んで合成しています。
34回オープニングより、まばゆい光芒の中から現れるMacintosh。
 電算着色とアナログ効果を合成した作例です。

おまけ:透過光に色をつけてみよう

 研連30回オープニングの冒頭を飾った針穴アニメ「サンタクロース・プロジェクト」では、街の上空を通過するサンタクロースのシーンが登場します。この作品では、街の明かりの一つ一つにに色を付けるために、黒画用紙の裏面にトレーシングペーパーを貼り、そこにマジックで着色するという方法を用いています。テキストなら色セロハンを使えということになっているのですが、そんなもの切り張りしてたら次のクリスマスが来てしまいます。(笑)
 この時は、よせばいいのにR25フィルムを使ってしまい、当てても当てても足りない光量に参った覚えがあります。この時ほど、C12フィルターの存在が邪魔に思えたことはありません。
気の遠くなるような量の針穴で作られた街並み。とマジック着色の裏面。
裏面の色がやや黄色いのは、強烈な照明で焦げてしまったから。(!!)

光学フィルターの応用

 先に紹介したクロスのほかにも、写真用には美しいものから怪しげなものまで様々な特殊効果フィルターが存在します。どのようなものがあるかは、ケンコー社のカタログや、玄光社の「フィルター撮影ハンドブック」等を参考にしてみるとよいと思います。
 ただ、アニメーション撮影の場合、8ミリであるという点で35ミリの写真カメラと少々異質であり、また接写であるという点でも一般の用途とは異なります。そのため、一部アニメ撮影には使えないフィルター3もあるので、できれば購入の前に試着できる機会を探してみてください。

手作りのフィルターワーク

 最後に、フィルターを自分で作るケースを紹介しましょう。
 上図のオーロラのような光は、セルにグリス(田宮模型製)を塗り付け、くしゃくしゃにした硬い紙などでこすって引き伸ばしたものです。これをレンズにかざして下に適当な光源を用意すると、クロスフィルターと同じように一方向への不定形な光条が発生します。発光方向はグリスを引いた方向の直角方向です。これで光源を適度にランダムなものにすればOKで、光源には、くしゃくしゃにしたアルミ箔からの反射を用いました。このくしゃくしゃ加減とグリスの厚みが結構微妙だったのですが、このあたりは適当に試してみてください。書籍によってはクリスマスツリーに巻くような色付きのモールを使用するという記述もありました。おそらく出崎統監督名物の七色の光芒などはこれに該当する物と思われます。
 グリス系のエフェクトは写真のフィルターワークでは基本の部類に入りますが、さらにストッキングなど薄地の生地による回折効果を使用した例もあります。(東海「うにくらげ2」などは特に派手)
 このアナログで偶然性の強いエフェクトは、まだコンピュータには再現できるものではありません。意外性のあるエフェクトを狙って、各自工夫してみてください。


※1:高級一眼レフには大抵装備されていますが、一般のコンパクトカメラでも、簡単なレベルなら出来ないこともありません。フィルムを手で巻き戻せることが条件です。
※2:色指定の妙技で、透けているような絵を描くこともできますが、背景が透けて見えるような表現はさすがに特殊撮影に依存してしまいます。
※3:例えばケンコーのソフトンの最近のタイプは、ボカシを発生するための水玉模様が何故かそのままフィルムに丸見えになってしまい、ZCでは使えませんでした。凸凹の多いフィルターは基本的にバツのようです。
[↑目次へ]