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第3章 電算機材の必要構成

 AV用途に使われるコンピュータは、そのパワーや拡張性への要求において、事務用や家庭用のパソコンとは別の次元に存在します。
 AV、特にビデオ用のコンピュータというのは、異常に酷使される分野に位置します。というのも、人間が休み休み打っているワープロやフォトレタッチとは異なり、ビデオ編集や3Dグラフィックスでは、時に1週間近くもノンストップで計算させたり、10分間以上もハードディスクに一定速度での連続読み出しを要求したりするという、耐久レースのような使い方をする必要があるからです。
 よって、雑誌の新製品レビューなどはほとんど当てにならず1、結局は自作するしか手がありません。

 まあ、最近は標準化も進み、パソコンのハードウェアの組み立て程度なら、ラジコンやガンプラよりは簡単になってきました。パソコンを自作する人もだんだんと増えているといわれます。  また、少し昔ならハードウェアの初期不良なんて滅多にないことでしたが、特に97年に入ってからはハードディスクやメモリの値下げ競争の結果、各部品の耐久性がかなり下がってしまい、私を含め身の回りで無視できない数の初期不良が発生しています。そんなわけで、マシンを買うなら3分の1ぐらいの確率でハズレを引くことを覚悟するのが当たり前になりつつあり、皆さんのマシンも決して例外ではないのです。ミッションクリティカルな環境に置くマシンをいちいちメーカーに担ぎ込むのも御免だし、ここはやはりメンテナンスの素早さという面においても自作が一番だと思います。
 最近のメーカー製品は信用できないものが増えており、自衛策としても信用できるマシンが自作しかないという現実もあります。一つ例を挙げるなら、富士通のFM/Vがあります。先日ある会員のFMの故障に遭遇したのですが、この再設定を行おうとすると、何と添付ディスクは「ハードディスクをみんな消して出荷状態に戻す」という極悪な代物だったのです。コストダウンのために特殊な機器を満載しているくせに、デバイスドライバの添付もなし。ユーザーを馬鹿にするにも程があります。やはり自衛手段としても、自作は重要になっています。

 そんなわけで、自作を前提として、アニメーション録画に必要なパソコン構成について述べてみましょう。所々にやりすぎじゃないかと思われるような記述も出てくるかと思いますが、これは高画質のSVHSレベルを狙う場合の話なので、あとはサークルの事情に合わせて適当にチョイスしてください。

アーキテクチャ

 現在、パーソナル市場で流通しているパソコンにはIBMの血を引くPC/AT(DOS/V)、NECのPC-9821、AppleのMacintoshという3つの系統が存在します。PC/AT系と98系は同じWindowsが動作するため、ソフトなどを動かしている限りは違いが見えませんが、ハードウェアをあれこれ増設するとなると、ATしか選択肢はありません。Macintoshは専門外なのでパスです。自作が可能なのは、AT系のみとなります。
 PC/ATというのは大昔にIBMが発売したパソコンで、その子供であるAT互換機(要するにモドキ)らと共に日本以外の資本主義社会を席巻する大勢力となりました。日本に進出するにあたって、日本語対応のMS-DOS/V というシステムを塔載したため、DOS/V互換機とも呼称されますが、すでにWindows95はDOS/Vではないので2、現在では本来のAT互換機という呼称が一般的かと思われます。
 現在、先進的なパーツはすべてAT互換機向けに発売されています。AT/98/Mac共にPCIという拡張機構を備えており、このPCI用部品の装着構造は統一されているのですが、デバイスドライバ(制御プログラム)を個別に作成しなければならないため、ビデオ入出力を始めとするほとんどの部品がAT専用となっているのが現状です。但しカノープスのPowerCapturePCIは98でも使えるということです。

本体ケース

 まずパソコンを自作するにはケースの選択が必要です。最近はマザーボードに「AT」と「ATX」というタイプがあるので、買ったマザーのタイプに合ったものを選んでください。一番大事なのは電源容量で、やはり300Wクラスは欲しいところでしょうか。これでも、7000回転級のハードディスクを3台付けると電源容量が不足します。電源の不足しているコンピュータでは、突然失神してリセットするような現象が多発するようになります。
 高性能CPUの発熱も結構なものですが、高速ハードディスクやビデオキャプチャカードの発熱量も馬鹿になりません。排熱性能からしても、やはりミドルorフルタワーケースの選択は必然だと思います。カバーが開けやすく、冷却ファンの増設ポイントが多く、手を切らないように鉄板の断面がしっかり丸めてあるものを選んでください。
 私は最初KNシリーズのケースを購入し、鋭利な断面のために両手をバンドエイドだらけにしてしまいました。結局、後で危険個所を削って対処しましたが・・・。また、KNシリーズにはFDやCDをカバーするスライドドアーが装備されていますが、これはFDを使おうとすると吸気口を塞いでしまうという困ったデザインで、あまり不便なので取り外してしまいました。ドライブの埃保護という名目なのでしょうが、それなら観音開きのデザインを選ぶべきです。

マザーボード

 CPUや各種ボードを差し込む、すべてのベースとなるボードです。
 最近のものはどれでも大差ない気がしますが、BIOS3の設定項目の細かいものを狙うのが吉でしょうか。当会ではIWill社のP55TUというモデルを使っています。これはSCSIインターフェースを内蔵しているタイプで、別売りを買うよりかなり安く上がります。
 注意点として、あまり最新鋭過ぎるマザーを買うと、動作不安定に悩まされることがあります。私のP55TUも、新版のBIOSが配布されるまでの1ヶ月間は突然のフリーズ(沈黙)に悩まされ、またPowerCaptureを購入した時も、BIOSが更新されるまで動作不良にかなり苦しみました。やはり安全を期すならば、発売から数ヶ月経ったものを狙うべきでしょうか。  少し前まで、あるいは現在も「マザーボードはASUS(アスーステック)」が安心確実という評判がありましたが、このメーカーの商品には落とし穴が多く、数度痛い目に遭った私は出来る限りここの製品を避けるようにしています。11

 従来のマザーボードのデザインを「AT」といい、さらに最近は新規格「ATX」というデザインが登場しています。こちらを選ぶと電源を自分で制御できるというちょっと賢い機能が付加されます。でも毎朝タイマーで勝手に目を覚ましたりするほど賢いわけでもないようです。ケースとマザーを両方ATまたはATXに統一する必要がありますが、その他の部品のチョイスには影響しません。今後のトレンドとなるものなので、特別な事情のない限りATXで固めるのが無難でしょうか。
マザーボードとPentiumプロセッサ。 煙草の箱とサイズを比較したいところですが、あいにく私は吸わないもので・・。

CPU

 コンピュータのエンジンに相当する部分ですね。「Pentium(ペンティアム)」が最も有名ですが、最近はIntel社以外のプロセッサもだいぶメジャーになってきたようです。
 ビデオ再生の最低水準はPentium-133クラスですが、フェードやズームなどの編集を行うとなると、いくらパワーがあっても足りなくなってきます。うちでは最近はAMD社のK6-200を使用しています4。「東京」の頃はCylix(サイリックス)社の6x86-166+を使用していましたが、これは発熱量と電気消費量が尋常ではなく5、えらい目にあいました。まあ、最近のモデルではそんなひどい話は聞きませんから大丈夫でしょう。発熱関係でいちばんおとなしいのはIntelです。無難さで選ぶならここしかありません。また、CPUを複数装備できるのは特許の関係でIntel製品しかありません。
 最近のトレンドは「MMX」です。これはビジネス市場では効果が疑問視されているものの、2Dグラフィックスに関しては結構な効果があるといわれます。Media Studio5.0はこれに対応しているということなのですが、効果のほどは・・・よくわかりません。私達の扱うアニメーションは全面的にこの分野に該当しているので、宣伝通りならかなりの恩恵を受けられるはずなのですが・・・。

メモリ

 実は、ビデオ編集はそんなにメモリを食いません。Windows95が動く標準水準6である32Mも載っていれば合格なのですが、いまどきの値段では、あえて64M装備を避ける理由は見当たりません。Photoshopなどのグラフィックスを扱うならば、ソフト単体を起動させるのに64Mは必要になります。あとは扱う画像のサイズによって必要量が増加します。
 QuarterDeck社のMagnaRAM97というソフトを使うと、メモリを格納時に圧縮して容量を稼ぐというちょっとおっかない機能が使えます。でもその原理のおっかなさの割には動作はとても安定しており、仮想記憶7も高速化されるのでおすすめです。

 WindowsNT4.0を動作させる場合、64Mが最低水準となってきます。グラフィックスを扱うならば、さらにプラス32Mの96Mが合格ラインでしょう。こちらではMagnaRAMも使えなくなりますが、安定性はぐっと良くなります。

 最近はDIMMタイプのSDRAMという高速型メモリが主流になり、マザーボードを換えようにも手持ちのSIMMが使えなくて困ってしまうケースが増えています。速度がそんなに違うとは思えないのですが、これも需要を生むための業界のエゴなのでしょうか。
 EDOメモリ登場時も日本の雑誌は「EDOはこんなに速い!」と書き立てておきながら、実際には誤差程度の速度向上しか見られませんでしたし、いつまで業界はこんなユーザー不在の競争を続けるつもりなのでしょうか。

ハードディスク

 ここが、ビデオ再生装置としてのパソコンの最重要なパーツです。ここだけは思い切り贅沢に資金を投入したいものです。

 まず、ハードディスクユニットは物理的に2台以上で構成されることが必須です。全部SCSIで固めるとセッティングが面倒なので、Windowsやソフトが入っているところは安価なIDEタイプで、再生に使うドライブには高速なSCSI(スカジー)タイプという組み合わせがおすすめです。

 再生ドライブユニットについては、以前は『SVHS画質を狙うなら秒6MB程度の転送速度は欲しいので、必然的にWide-SCSIまたはUltra-SCSIの高速ハードディスクを狙うことになります。』とか書いていましたが、最近はどこのドライブを見ても高速化が著しく、IDEでも当たり前のように6MB/Secなんてスコアを叩き出しています。それでもなお、HDとデータを転送する際のCPU負荷はSCSIの方が低く、またビデオを展開しながらディスクを読むという高負荷状態ではやはりSCSI有利は変わらないとのことです。
 一般的にビデオ用のハードディスクは7000回転級だといわれますが、本当にはハードディスクの速度は回転数と密度で決まるので、スペックを見る時は回転数だけに気を取られないように、よく情報を集めてみてください。最近は高密度記録になってきて、5000回転級でも十分に秒6MB前後が出せるようになっています。96年夏に買った7200回転の1GBドライブはやたら騒音が大きく(振動が床に響く)焼けるように発熱するというのに、まったくいやになってしまいます。

 ハードディスクのデータ転送は頭の方(外周部)ほど高速で、尻(内周部)になると半分程度まで落ちてしまいます。後ろの方は再生用に使えないけれど、放置するのももったいないので、分割して素材データの格納用にしてしまうといいです。

長時間再生への挑戦

 だいたい3分を超える作品になってくると、シングルドライブではどうにもならない壁がみえてくるようになります。それはサーマルキャリブレーションの壁です。
 サーマルキャリブレーションというのはハードディスクが熱で膨張収縮するために数分に一度ずつディスクの状態を走査する機能なのですが、再生中にこれをやられると致命的なコマ落ちが発生します。本来ならサーマルキャリブレーションを行わないようにした「AVタイプ」というハードディスクを使うという話なのですが、秋葉原のそこらへんのお店ではそんなものは並んでいるわけがないし、高くて多が出せません。
 そこでRAID(レイド)0というシステムを利用すると、複数のHDを1ドライブにしてしまうというちょっと面白いことができ、これで先の問題を解決することが出来ます。
 RAID0はストライピングともいい、RAIDドライブ(OSからは普通のHD1ドライブにしか見えない)に対して書き込みをおこなうと、そのデータは分解され、各構成ドライブに交互に振り分けられて記録されます。これで、例えば3ドライブ構成の場合は1ドライブの負荷は1/3に、または最大速度が3倍になるのです。(理屈上は・・・です。実際には2倍にもならないらしい)
 するとサーマルキャリブレーションの瞬間、普通のディスクならバッファ(ドライブ装置に内蔵されているメモリ)に蓄積した先読みデータを瞬時に使い切ってコマ落ちしまいますが、RAIDなら読み出し速度が半分で済むからバッファの記憶で持ちこたえられるようになるのです。
 RAID0があると、安価なドライブを束にして高価な1万回転ドライブを上回るパフォーマンスを出し、また長時間にわたって安定した再生速度の維持が可能になります。また転送速度も1台のときより2,3割上がるといわれますが、どうも速度に関してはいじってみても実感がありません。ただ高速転送の持続時間が延びるのは非常に有利です。どうせなら1台で大容量を狙うよりも2台に分けてこのRAID構築を狙ってみるのも面白いのではないでしょうか?
 当会では、追い込みの時期に会員の外付けHDを借りて臨時RAIDを組んだりした事例があります。

 必要な容量は、SVHS画質(1/10圧縮)なら完成品段階で1分100MB前後になります。単体のドライブで安定した再生を行うためには、できれば2GB程度のHDDが欲しいところです。作業用は、「東京」でジャスト1GB程度のデータが発生しました。サークルで使う場合、複数の作品を同時に扱うこともよくあるので、データ格納用に安価なドライブを装備しておくとよいでしょう。

 ビデオ編集の際は、出力品を材料とは別のドライブに配置するのが理想です。というのは、同一ドライブで読み込みと書き込みを同時に行うと、著しくパフォーマンスが低下して常時の3分の1も速度が出なくなってしまうからです。材料側は、どんなに遅いドライブでもいいので、とにかく別のユニットを指定してやるべきです。1台を分割して2ドライブにしているような場合では、同じヘッドが酷使されてしまうのだから意味がありません。ただし、あまり遅いドライブに材料を入れると、プレビュー時にコマ落ちが生じてびっくりしてしまうことになります。

 ハードディスクをリムーバブルにするというのは有効な選択です。リムーバブルフレームはさまざまな形式があり、類似していても互換性のないものが多いので注意が必要です。が、実のところ当会ではあまりそのあたりは気にしていません。本当は、交換して運用できることよりケースを開けることなくHDを取り出せることが最大のメリットなのです。ただのHD取り出し窓になってしまっているわけですね。互換性のないフレームが持ち込まれても、詰め直しに手間はかかりませんから、あえてまとめ買いなどをする必要はありません。
 一般に市販されているのはIDEとSCSIのフレームですが、最近はWide-SCSIのフレームまで登場しています。ただフレームは一般的に放熱性に問題があるので、超高速ハードディスクなどはあきらめて冷える場所におとなしく固定するべきでしょう。

SCSIアダプタ

 SCSIアダプタもピンからキリまでありますが、AV用途では、データ転送がCPUに負荷を与えないバスマスター転送に対応したタイプを選ぶ必要があります。PIO転送タイプでは、データ転送をCPUがまかなうことになり、いまいちスピードが出せません。
 最もメジャーなのはAdaptec社のAHA-2940UWですが、最近はTekram社のDC-390が安くて注目株です・・・と思ったら、Windows95以外での動作に関して不安な情報がいろいろと流れているようです。やはりWindowsNTを狙う場合、私達はブランド品からは逃れられない運命のようです。うちのIWill P55TUのようにUltraWideSCSIをマザーボードに組み込んだタイプもありますが、これはコストが大変安く上がってお得です。ただ、マザーを交換するとSCSIも捨てる事になるのがもったいないところですが・・・。

グラフィックスカード

 98やFM-Rのような日本のパソコンには標準で画面出力回路が付いているのですが、海外のIBM PC/ATの一族に関しては、これが必ずしも当たり前ではなかったりします。その代わり、この部品を差し替える事により、グラフィックスの性能を大きく変化させる事が出来るのがAT互換機の強みです。
 ビデオキャプチャカードをカノープスにした場合、グラフィックスも同じカノープスで固めると、テレビ画面の代わりにモニターに画像を出力できるというお得な機能があります。パソコンで色塗りとかも狙うならば、速度と安定性と実績からしてMatrox Milleniumが基本にして究極です。最近はカノープスがPWR128Pという最新鋭のカードを発売し、これが注目株だと思います。ドライバがちゃんと出来上がってからの話ですが。
 個人的にメーカーの選り好みを申し上げると、ダイアモンドマルチメディア、アイ・オー・データ、メルコの3社は避けるべきでしょう。D社はソフトウェア開発能力が根本的に欠如しているためデバイスドライバ(制御プログラム)の出来が悪く、またユーザーサポートも非常に貧弱だといわれます。また後2社は、カタログスペックで見ると豪勢ですが、実際に使ってみるとカタログに出ないところの性能が穴だらけで、5千円ケチったところが、結局ボード買い替えで丸ごと大損という悲惨な結果を招きます。

ビデオキャプチャカード(Motion-JPEGカード)

 Motion-JPEG形式で圧縮されたムービーをテレビに出力するカードです。ハードウェアによる圧縮・展開機構を備えており、ディスプレイではグラフィックスカードの能力では再生が追いつかないような大きいデータでも、スムーズに再生できるようになっています。
 メジャーはミロ社のDC-20/30とカノープスのPower Capture PCI/同Proです。それ以外は避けるべきでしょう。うちでは、おまけの子で超ミニノートのLibretto50にキャプチャカードを装備させた事例もありますが、このカードはハードウェアでの圧縮機能がなく、1コマずつのソフト圧縮になるため結構ストレスがたまりました。間違ってもリアルタイムの録画に使える代物ではありません。
 ミロのDCなら、Adobe Premiereと組み合わせたときに拡張機能が使えるので、編集時に有利です。DC30は音声機能もあるので、出来の悪いSoundBlasterのお世話にならずに済むのがポイントです。カノープスは国内メーカーでサポートが安心できるうえ、画質でも定評があります。最初にMediaStudio VEが添付されてくるあたりも、最初の一歩にはいいのではないでしょうか。ただ、ハードウェアとしてちょっと癖があり、セッティングに苦しむこともあるようです。

 カノープスのグラフィックスカード・PowerWindowシリーズには、ビデオ取り込み機能が装備されているものがあります。ハードウェア圧縮機能がないのですが、コマ撮りならば問題なく作品に使えます。ただ、再生においてどうしてもPowerCaptureの補助が必要となるので、サークルの主力機がPowerCaptureを装備し、会員のプライベートマシンにPWを装備させるなどの構成にしておくと良いでしょう。

サウンドカード

 最低ラインはCreative Tech.社のSound Blaster16です。これ以上にケチるべきではありません。4000円級のカードでは、音量を上げると割れ始めるとか、何故か発音と同時に画像再生がひっかかるとか、ロクでもないトラブルが頻発します。
 SoundBlasterも大嫌いなボードです。いまどきフルサイズISAカードを使わねばならない実装能力の低さこそは無能の証といってもいいでしょう。うちのSB16は、音量を下げてみても、どうもチリチリというノイズが消えません。また、深刻な問題として、画像と音声のシンクロがずれるというレポートを各所で耳にします。うちの機械では経験していませんが・・・。しかし、SoundBlasterを避けて上を狙うとしても、一気に3万円台に突入してしまうのが頭の痛いところです。TWO-TOPなどでは売れ線しか扱わないので、T-ZONEあたりを覗いてみると面白いのが見つかると思います。
 うちにあるYAMAHA SOUND EDGEというボードは、DSP機能でサラウンド効果やボイスチェンジャー遊びなどが出来るので、アニメサークルには結構向いているのではないかと思いますが、Windows95登場以前の商品のため、設定がやたらに面倒臭く、余程腕に覚えのある人でないとおすすめできません。
 それから、WindowsNTへの対応も重要なポイントとなってきています。この97年8月からはカノープス社もPowerCapturePCIのNT用ドライバのベータ版配布を開始し、ビデオ編集のNT移行は時間の問題となりつつあります。前述のSoundEdgeなどは見捨てられたボードなので、可哀相にこのまま退役になってしまいそうです。

 最近、PCIバスに装着するタイプの音源カードが見られるようになってきました。これで、めでたく諸悪の根元Creative社の天下も終わりになることでしょう。ただ、問題なのは、PCIバスの空きです。AV用途のコンピュータなら、SCSIとグラフィックスとキャプチャカードですでに3本占有しているはずであり、サウンドを入れると通常のマシンならPCI4本がすべてふさがってしまうのです。8全部入ればそれでいいじゃない、というわけにもいきません。あと一つ、ネットワークアダプタが付けられなくなってしまうのです。3Dカードも付けられないし、何とかならないものでしょうかねぇ・・・。

ネットワークカード

 マシンが複数に増えた場合、ネットワークの装備は必須です。ネットワーク接続されたコンピュータの能力は、単体に比べ実に5割増しになるといっても過言ではありません。
 現在のパソコン用のネットワークはEthernet(イーサネット)の10Base-Tタイプが主流ですが、PCI用では高速型の100Baseも同等の価格になっているので、カードだけは100Baseで揃えておいてもいいでしょう。カード以外に何かあるのかというと、中継に使うHUB(ハブ)という装置が必要で、これが100Base用では97年夏だと結構なお値段だったのですが、97年末現在、店によっては1万円台まで見られるという話です。グラフィックデータを扱うと100MB単位でのデータ転送がざらに起こるので、できるだけ速いネットを組んでおきたいものです。
 カードの品選びについても少々。出来る限りPCIを選んでください。ISAバスの使用は、マシンのパフォーマンスとメンテナンスの簡便性を損ないます。メーカーについては、メルコとエレコムを絶対に避けてください。これを買って後で泣いても知りません。エレコム(Laneedブランド)のカードは、98用とAT/ISA用の2種4枚を買い、各々1枚ずつ不良を引き、残る2枚もPnP(自動設定機能)に欠陥がありました。これこそ安物買いの何とやらです。私の金ではなかったからいいものの・・・。低価格ボードは恐いですよね。

リムーバブルデバイス

 さて、作成したデータはいくらでも増えるため、いつまでもディスクに飼っておくわけにもいきませんが、しかし消してしまうわけにもいかないわけで、適当なリムーバブルストレージが必要になります。
 世の中にはMO(光磁気ディスク)、PD、ZIP、JAZ、CD-R、テープ等のリムーバブルストレージが存在しますが、ここは目的別に選択肢は分かれます。なお、ほとんどの場合、接続にはSCSIインターフェースが採用されています。

作業中のデータの移送

 まず、作業途中のデータの輸送を考えてみましょう。これは、自宅のパソコンとサークルのパソコンの間で移送するような場合に必要になります。こういう製作途中のデータを保存するためには、書き換え可能なデバイスを選択する必要があります。

MO(光磁気ディスク)

 230MのMOは、この手のリムーバブルストレージとしては最も普及率が高く、他人との交換についてもCD-Rの次に汎用性があります。書き込みにやや時間がかかるのが難点です。640MのMOは、普及率も低く、他人との交換には向きません。でも230Mのモードがあるので、自宅用と交換用に使い分けが効くのではないでしょうか。

ZIP

 ZIPは国内での普及率が低く、他人との互換性は期待できません。
 発表時に予告されたような大容量モデルも登場せず、メディア流通量も少ないため、メディアが\1000(100MB)もしてしまい、互換性ばかりかコストパフォーマンスでもMOに惨敗しています。SCSIインターフェースを使わなくても接続できるのが売りですが、ノンリニアビデオの世界ではSCSIは当たり前だし、あえてZIPを選択する必然性はどこにもありません。

PD、JAZ

 PDとJAZは、大容量なのですが普及率が低すぎて、他人との交換にはまず使えません。
 PDは松下系が推進していた規格で、600Mの容量と、CD-ROMドライブを兼ねられるところがポイントです。ディスクも1枚2000円前後なので、コストパフォーマンス面では640MのMOとほぼ同様と見て差し支えありません。ただ、230Mへの転用のような芸当がないので、使い道はさらに制限されます。
 JAZドライブはいわゆるリムーバブルハードディスクの類なので、読み書き速度においてはMOやPDより圧倒的に有利です。ところが、リムーバブルの割にはディスクが1Gで1万円(97/12現在)もして、これでは本物のハードディスクに負けてしまいます。他人との交換にも使えないし、こんなことなら、2G程度のハードディスクをたくさん用意したほうが有利かも知れません。

外付けハードディスク、またはリムーバブルパック

 実は、作業効率と速度においてはこれが最強かもしれません。
 SCSIハードディスクの場合、PCIのSCSIアダプタ間では結構互換性があることがわかってきました。くれぐれも輸送中のHDは、絶対ぶつけたりしないように細心の注意が必要です。
 受け側のマシンがリムーバブルHDのベイを用意している場合はIDEハードディスクも利用可能になります。ちょっと昔だとマザーボードが違うとHDの互換性がなくなってしまったのですが、最近ではハードディスクを交換しても大抵の場合は読み書きが可能です。
 結局は、完成品を別のメディアに保存しなければならないのですが。

完成後のデータの保管

 出来上がってしまったデータに関しては、また別の対策が必要になります。どうせ一度作ったら書き換えなど起こるわけもないムービーデータにわざわざMOやJAZ、HDなんて贅沢品を使い捨てにするのも馬鹿らしいので、何らかの劇安ストレージを用意する必要があります。

テープデバイス

 DATなどのテープドライブ(6〜20万円)を用意すれば、数百円のテープ1本に2G以上の記録ができてコストパフォーマンスでは最強なのですが、ドライブがかなり高価で、テープデバイスではまず他人と交換できないのが難点です。あと頻繁な書き換えには向かず、そのため完成品のバックアップに用途は限られます。

CD-R

 「書き込めるCD-ROM」で、一番のおすすめです。何といっても、データ配布の際の互換性ではCD-ROMは普及率100%であり、間違いなく最強です。650Mバイトという大容量で、コストも最近なら200円(97年末現在)まで落ちています。ドライブのお値段は約3万〜5万(97/12)でしょうか。
 CD-Rなら、データの保存のほかに、自作の音楽を記録してそのままプレイヤーで演奏するような楽しみかたも可能です。でもソフトウェアのコピーは違法なので御用心。
「東京の空の下」のバックアップは2枚組。

 おすすめの機種はソニー526Rか、ヤマハ102のあたりです。(ロジテックやメルコほか、他社にもOEM供給によりここのドライブを内蔵している機種が多数存在します)書き込み4倍速を狙うと、60分のCDをたった15分で書き込めるので作業効率がいいのですが、まだ少しお値段が張るでしょうか。
 最近の4倍速機種は、値下げ競争の結果、信頼性を落としていることが多く、どれが安定していると断言するのが難しくなっています。困ったことです。
 4倍速ドライブを使う場合、IDE構成では転送能力が追いつかない場合があります。4倍速CDとHDの速度には天と地ほどの差があるはずなのですが、どうやら信号線の長時間占有が原因らしいです。とにかく実測値ではこうなっています。4倍速で安定させるならSCSIが必要といわれていましたが、でもアニメを作るような高性能のパソコンならこの条件は軽くクリアしているはずです。
 最近はATAPI(IDE)仕様のCD-Rドライブも登場しています。SCSIが不要になる分安価になるのがメリットですが、どうせ、ノンリニア編集を行う団体ならSCSI装備が当たり前だからあまり変わりはないのかもしれません。

 買ってはいけないドライブも存在します。ずばりビクターJVCの製品です9。ここのドライブを採用しているのはアイ・オー・データですが、その不安定さは有名な話で、お値段をケチった以上に書き損じが頻発し、作業時間とメディア代で大損することになります。
 さらに大容量を狙うとなるとDVD-Rの登場を待つ事になりますが、97年末ではまだ仕様書もロクに決まっていない状態なので、あと4年ぐらいはアテにしないほうがいいでしょう。そもそも、自作のデータがCD-ROMの容量を超えてしまうなんて、私にはもう何がなんだか・・・。
 DVD-RAMというメディアも登場しており、こちらは書き換え可能で数ギガバイトの容量があります。価格容量比も良好なので自分でバックアップを取るにはかなり魅力的な機械ですが、まだ友達との交換用にはつらいようです。
 CD-Rでバックアップを撮った場合、リストアするためのCD-ROMドライブも高速型が欲しくなります。うちの8倍速では、74÷8=9分強かかってしまい、転送を待っているとつい、これが24倍速なら3分間になるんだよなー10と考えてしまうのですが・・・いや、ぜいたくは敵です。


※1:雑誌は全て提灯記事だから、そもそも最初から当てにならないともいいます。その中でお勧めの雑誌は「パソコン批評」。広告なし、辛口な内容で結構いけます。
※2:Microsoftは「Windows95はDOSを使用しない」と言っていますが、実際は別売りのDOSが必要ないだけで、内部にはばっちりMS-DOS/V 7.0相当の機能が組み込まれています。商品名が違うから確かにDOSではないのですが・・・でも・・・やっぱり・・・
※3:BIOSは人間で言うところの脳髄あたりに相当し、呼吸や心拍のような基礎活動を司る重要なプログラムです。これがないと、パソコンは電源投入されても起動プロセスに入れません。
※4:P55TUとの組み合わせは動作保証外だったりします。他人様にはおすすめできません。
※5:CPUソケットの半田が溶けそうなほど発熱するのです。放熱版を触ると確実に火傷します。目玉焼きが焼けてお湯も沸きます。ケースがCPU周辺だけほんわかと暖かくなるのだからたまりません。そんなあなたにはCoolerMaster社の「風神」という超大型ファンクーラーがおすすめ。
※6:初期の商品は8MB標準で売っていたのだから、メーカーの良識を疑ってしまいます。当時の半導体価格では、16M搭載したら客に見せられない定価になってしまう、という事情もよくわかりますが・・・8Mという環境は、メモリが少なくて遅くなるなんていう次元ではなく、とにかく動作しないのです。仕方がないので、ほとんどのショップでは16Mに増強してから販売していました。それにしても「Windows3.1より省メモリで軽快に動く」と宣伝していたマイクロソフトに至っては・・。
※7:別に、足りないメモリを亜空間に確保するようなわけではなく、覚えきれない情報をハードディスクに放り出してしまう機能です。覚えきれないことをメモに書く人間と同じですね。
※8:それじゃSCSIをマザーに搭載したタイプならと思った貴方は目の付け所はなかなかいいのですが、大抵の場合、このタイプはPCIが3本に減っています。残念。例外的にオンボードSCSI+PCI4本というマザーが存在するのですが、現在のスタンダードはあくまでPCI4本です。
※9:ビクターJVCのCD-ROM技術は怪しいもので、ここの技術力の不足のためにセガサターンの背丈が高くなったという噂さえあります。
※10:そんなわけはありません。最近のドライブは内周と外周で速度が違うので、スピードの出るところが24倍速になるだけなのです。それでも、少しでも速いドライブが欲しいものです。 ※11:例えば私のTX97XEは最近装備が進みつつある「温度監視機能」も装備していると称していますが、実はオーバーヒートしても見てるだけで何もしてくれません。素晴らしい!(GIGA-BYTE製品なら自動的に運転速度を下げて冷却を待つのですが・・)

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