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第3章 フィルム

 普通、皆さんが日常に使用するフィルムは、カラーのネガフィルムという1種類しかありませんが、8ミリフィルムを使い始めると、少し違うフィルムの世界に飛び込むことになります。一般の写真フィルムとの違いについて、そして写真フィルムの世界の全貌について述べてみましょう。

フィルムの2つの種類

 写真フィルムには、「ポジフィルム」と「ネガフィルム」という2つの分類が存在します。普段写真に使っているのは「ネガフィルム」で、記録された画像が反転して茶色のベースに記録されるというものですが、もう一つの「ポジフィルム」は、記録された画像がそのままの色調でフィルムに記録されるようになっています。私達の使う8ミリフィルムは、この「ポジフィルム」に分類されます。そりゃそうですよね、スクリーンにお化けみたいな反転画像を投影するわけにはいきませんから。
3種類のフィルム。下からポジ、カラーネガ、モノクロネガ。

 このポジフィルムというフィルムは、ネガフィルムに対して、より正確な色調表現と豊かなコントラストが特徴で、印刷向けの商業写真などでは基本的にこのフィルムが使用されています。ポジフィルムも広く市販されており、土産屋で買うわけにはいきませんが、並の写真店にいけば手に入ります。商品名としては「コダクローム」「エクタクロー、ム」(共にコダック)「フジクローム」(富士)が挙げられます。
 実は、ネガフィルムからプリントする場合、プリントショップの機材や薬品の具合によって大きく発色が変化してしまいます。そのため、同じフィルムを別の日に焼き増しするだけで発色が異なるということもざらにあるのですが、ポジフィルムではそのようなことがあまりなく、撮影時の表現意図が正しく反映されるのです。
 私もちょっと上等な写真を狙うときにはポジフィルムを選択するのですが、この高画質は誰にでも簡単に手に入るわけではありません。ポジフィルムは露出に非常にシビアで、ちょっとでも外すと極端に色が濁ったり、または真っ白になって何も見えなくなってしまうのです。
 16ミリ映画の世界では、ネガで撮ってからポジに複写するため少々の誤差なら回復のしようもありますが、8ミリではそうもいきません。そういうわけで、8ミリでの露出決定は、普段の写真よりも慎重に厳密に行う必要があります。
 団体によっては、大会場のスクリーンで最適な明度が出るように露出を調整しているところもありますが、これをやるとハイライト付近の階調が全部白に飛んでしまい、本当の発色の美しさを損なってしまいます。ポジフィルムでの最適な露出は、ライトボックスに載せてみたときに一番はっきり見えるところです。映写機でのチェックは、どの明るさもそれなりに見えてしまうのでいまいちです。

フィルムのもう2つの分類

 フィルムには、さらに電球照明に最適化された「タングステンタイプ」というフィルムが存在します。8ミリでは、RT-200というフィルムがそれに該当します。
 このフィルムは、タングステン電球(白熱電球)の照明下で最適なカラーバランスになるように調整されており、写真電球とペアで使われる室内撮影に最適なフィルムになっています。日光の下で撮影すると世界が真っ青になってしまいますが、赤い光を放つ(人間には黄色にしか見えない)写真電球と組み合わせると、ちょうど真っ白なカラーバランスが得られるようになっているのです。
 要するにフィルムに青のC12フィルターが入っているだけなのですが、C12を使うときのような光量の損失がないのがメリットでしょうか。もっとこのフィルムの画質が良ければ、アニメの撮影も照明の苦労がなくていいのですが・・・ねえ。
 ちなみに、日中にこのタングステンフィルムで撮影するときは、C12の逆であるW12フィルターを使って赤みがかった光を作り色バランスを合わせるようにします。

感度とは

 さて、この話題も避けては通れないでしょう。
 R25やRT200という数字は、ISO委員会が定めた、フィルムの光との反応の速度を示した指標です。ISO100で露光に1秒かかるとすれば、ISO200のフィルムは同一光量下では半分の時間で感光が完了し、同一時間でなら半分の照明で済むという意味になっています。
 写真フィルムでは近年までISO100が標準扱いでしたが、最近はISO400でも100相当のきめ細かさと発色が実現されるようになり、光量の弱いズームレンズの隆盛に伴いISO400が標準の地位を占めるに至っています。
 感度と画質は一般にトレードオフの関係にあります。たとえばISO100以下のフィルムを使えば、より鮮明な色彩と精細な描写を得られます。
 高感度フィルムになると、粒状性(きめ細かさ)と発色の鮮やかさが失われはじめます。感度1600あたりになると、もう「警視庁密着24時」みたいなザラザラな写真になってしまい、記録写真ならともかく、モデルさんなんかを撮った日にはブン殴られてしまいます。
 一般に感度が高いフィルムほどお値段も高くなりますが、感度が低ければ安くなるかといえばそうでもなく、低感度は低感度で高画質だからということで高価になっています。

雑談:8ミリフィルムの需要と寿命

 先日、早稲田大学であった自主映画のイベントに際して富士写真フィルムの方がいらっしゃって、8ミリの現状について解説をして下さいました。
 お話によると、もう8ミリフィルムはビデオムービーに押されてとっくの昔に採算割れしてしまったが、これはもう文化事業ということで、需要がある限り生産は続けるということでした。毎年ささやかれる「今年こそは生産停止」という噂を公式に否定されたのでちょっと安心しました。ちなみに、8ミリフィルムはここ10年以上、モデルチェンジが行われていないそうです。写真界では毎年新技術が投入されているというのに・・・しくしく。
 需要の方は、ここのところ大きな低下はなく横這い状態になっているという話でした。私が入学した頃は「ここ数年のうちに8ミリの生産が打ち切られて8ミリの歴史が終わる」と予測されていたのに、私達のところでは機材が先に絶滅してしまったという予想外の展開に、私はただ戸惑うばかりです。
 また、ZC-1000ほか8ミリカメラの補修ですが、こちらはすでに技術者が引退し、簡単な部品交換やチェック以上のサービスはもう不可能という話でした。公式に修理が無理だと言われてしまった以上、民間の修理業者に頼るしかなさそうです。
 実際のところ、アニメーション団体における8ミリの絶滅は、補修部品の品切れによって引き起こされたのだといってよいでしょう。しかしまだ、民間の修理業者には部品のストックがあったり、業者によっては部品を自作してクラシックカメラを修復したりしているところがあるといわれます。もう1回最後に修理して、稼動状態で保管しておくのもいいかもしれません。


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