これら2系統のソフトの長所と短所を挙げてみましょう。
まず、Photoshopは合成に強く、エフェクトを豊富に持っているところが売りのソフトです。また「プラグイン」システムによりエフェクトを別売りで追加することが出来るという拡張性もプロには欠かせないポイントです。売りはエアブラシの滑らかな仕上がりですが、同時にこれは滑らかすぎるというウィークポイントにもなるかもしれません。
最近では、バージョンアップとユーザー側の進化により、Photoshopでも頭髪のような複雑性を持つ物体を描きやすくなりました。でも一昔前ではPhotoshopといえばツルツル仕上げ、もしくはヌルヌル仕上げが定番となっており、これがCG塗りへの一種のアレルギーを生む原因になっていました。それがソフトの仕様上の必然だったのか、Photoshopカルチャーの未熟によるものだったのかはよくわかりません。
さて、PicrturePublisherは基本的にフォトレタッチソフトなのですが、ペン先のバリエーションを豊富に持つことにより、Painterにやや近い仕上がりが可能になっています。ほかにも、木目や布地のようなさまざまな模様を標準装備しており、CGのウィークポイントである滑らかすぎる仕上がり、のっぺりした平面などの弱点を克服しています。
このようにPP8はペイント面でも強力な機能を持ちながら、同時に合成についてもフォトレタッチとして第一級の性能を持っています。
本章ではPPの機能を活用し、最小限の労力で最大限の効果を引き出すアプローチを探ってみることにしましょう。
さて、ここで使用するのは「彩度」モードです。これは何かというと、塗られる下地の色の彩度を上から塗るブラシの色の彩度に準拠させるというものです。
つまり、下地に鮮やかな物体があったとして、上から彩度ゼロの灰色を「彩度」モードで塗り付けると、塗ったところだけ白黒になるなどといった効果が狙えるわけです。
■フルカラーの中で一個所だけモノクロになったサンプル。真ん中の気球に注目
このモードのブラシは彩度のパラメータしか見ていないので、彩度10の青を塗っても彩度10の赤を塗っても、効果はまったく変わりません。
さて、これを帽子娘に使ってみましょう。彩度が上がりすぎたシャドウ部に「彩度」モードにしたエアブラシを吹き付けます。彩度は最初はあまり極端に作用しないように弱く吹き付け、徐々に塗り重ねて自然な色合いに落ちつけていきます。やりすぎにはくれぐれも御用心です。また、常にブラシのサイズを大きく保つという基本も彩色時と変わりません。
ちなみに、色をつけるときには太陽光のあたる所は鮮やかに、日陰はやや抑えた色調に仕上げるようにします。夜間などの表現では色をまったく使わず基本的な照明色の明暗だけで形を表現します。
「ルミナンス」モードは、色相と彩度をそのままに、明るさを整えます。こちらのモードは、ブラシでの活用法はいまいち思い付きません。次の「帽子」のところで、重ねあわせ合成での活用法を示したいと思います。
まず、麦藁の模様を作ります。先に完成図を示します。これから、とりあえず編み目の模様だけを先に作ります。模様は黒白で描き明暗だけを先に作り、色などは後から合成で作ります。
■完成予定図
この帽子の編み目の模様は、一本ずつタブレットで引いていては日が暮れてしまいますし、きれいに平行に線を引ける保証もありません。そこで、ちょっと特殊なブラシを使ってみましょう。
[混合モード]は塗るほどに濃くなる[減色]にします。[増加]でも構いません。
[ぼかし]はゼロにします。そうしないと折角筆先の模様を変えても普通のエアブラシになってしまいます。
[サイズ]は50前後がいいでしょう。
[スペース]はゼロにします。そうしないと線が途切れて点線になってしまいます。
[圧力]は、いきなり濃すぎる色が出ると大変なので50前後にします。
[カテゴリ]を[カスタム]に、[名前]を[毛髪]にして[OK]を叩くと、ブラシが保存されて設定完了です。
何故「毛髪」かというと、このブラシは本当は帽子より髪の毛に多用するものだからです。次の上級編ではこのブラシを駆使することになります。
それでは、これを帽子の模様の流れに沿って大きく塗り込んでみましょう。模様の流れは清書する前の下絵の方に描かれているので、これを見ながら進めます。右回りと左回りの両方から描き込みます。
[減色]モードではあっという間に帽子が真っ黒になってしまいますが、後で明るいブラシでも模様を描くので構わずにいきましょう。
次いで、ブラシの色を白にして、モードを重ねるほど明るくなる[加色]にして同じタッチで描き込みます。すると帽子の光沢の模様が出現します。
これで明暗を交互に描き込んでいくとそのうちそれらしい模様になるのですが、毎回色を変えモードを変えるのは面倒くさいので、色は明度50%の灰色に固定して、モードを「加色」「減色」に交互に素早く切り替え操作ができるようにします。
ここはペンの筆圧の一発勝負ですが、とにかくできるまで続けます。マシンパワーが十分にないと、レスポンスが悪くて書き損じるかもしれません。
■まず[減色]で軽く模様を付けたところ
■[減色]と[加色]で数回塗り重ねた状態
さて、大体できあがりましたが、でも、まだこれではただの黒白の交差模様で、麦藁の模様にしてはちょっと眠い感じがします。そこで、これにエフェクトをかけて処理します。
[エフェクト]-[イメージ効果]でイメージ効果ウインドウを出し、[シャープ]を選びます。これで効果を最大限に入れて[OK]を叩きます。1回ではまだ眠いので、効果を半分ぐらいにしてもう一度[シャープ]効果を実行するといいでしょう。
これで一気に陰影がシャープになり、麦藁らしくなりました。でも、これではただの凸凹で、色を合わせてみてもまだ麦藁にしては物足りません。
ここに、自然素材の模様を入れてリアリティを向上させてみます。
下層に配置した帽子オブジェクトのコピーを選択したら、これに[塗りつぶし]-[模様塗りつぶし]ツールを使い、[クローバー]の模様を塗り込みます。
■塗りつぶしツールのリボン
クローバーの模様を選択し、模様のサイズを25%にして、目を細かくして塗り込みます。
■塗りつぶしたところ
正直に全部合成してしまうと模様がちょっときつくなりすぎるので、[透明度]を上げてやや合成濃度を落とし、下地のクローバーの模様が見えるようにします。
あとは上層の麦藁の陰影を再び[補正]-[トーンバランス]で微調整してシャドウを締めると、だいぶそれらしい仕上がりになります。
再度輪郭線を滑らかに処理する手順を示します。
1:必要なオブジェクトを全部表示させる
2:画面全域をマスクで選択する
3:[編集]-[コピー]と[貼り付け]で、現在表示されている画面から新しいオブジェクトを生成する
4:マスクを削除し、[クロママスク]でギザギザな黒線を選択してマスクを作成
5:[エフェクト]-[イメージ効果]で[スムーズ]を実行。[最大][最小][平均]の順に3回実行すると、輪郭線が消滅する
6:鉛筆線のオブジェクトを最上層に載せて[増加](または減色)モードで合成
以上の手順で輪郭がアナログになりました。
さて、まずは鉛筆の線を黒白反転させて[加色]で合成させます。
これは、光沢部で鉛筆の線を白く消してしまうための処理です。当然なが非光沢部の線も白くなってしまうので、不要な部分を黒で塗りつぶしていきます。必要なところだけマスクで隠して、残りを黒で塗りつぶします。
まだまだ足りないので、この発光オブジェクトをもう一段上に重ね、これを[エフェクト]-[イメージ効果]-[ガウスぼかし]でぼかします。発光体の表現は、この「ぼかし」が最も重要です。これがなくては、どんなに明るく描いてみてもただの蛍光色にしかなりません。
[発光体(線)]のオブジェクトを複製して、これにぼかしをかけてみました。ちょっと発光体らしくなりました。
もう一段重ねて、さらに大きくぼかしました。普通にやると、ぼかすほどに白が黒ににじんで薄くなってしまうので、[補正]-[トーンバランス]で白を強化してやります。ちょっと上の図はオーバーです。あとは、余分なところを黒エアブラシで軽く削っておしまいにします。
人間がタブレットと手で作り出せる絵柄の複雑さには限りがあります。そして、一般にフォトレタッチ系統では手書きのタッチも失われがちで、それゆえにコンピュータで作られたイラストはCG臭い過度に平坦な絵になってしまいます。
これこそがCGの弱点であり、そしてこれを乗り越える可能性を持つのが、「模様」という概念を前面に押し出して進化したPicturePublisherです。
自然素材の模様を埋め込むこと、そしてブラシの先に模様を適用することにより、CGは人間の手と根気の限界を超えた複雑さとランダムさを持つことができ、お手軽に自然さとリアリティと高級感が生み出されるわけです。
本章では合成モードや模様など、ただの色塗りソフトから一歩進んだPP8の使い方を示してみました。次の章ではアルファチャンネルなどを活用して、さらに進んだ合成の使い方を示していきたいと思います。