昨年の第1版は、内容の配分や構成も十分ではなく、何とか形にはなったものの、かなり不満の残る内容でした。それでも本書は通算で30冊以上の売り上げを記録し、予想以上の反響に喜ぶと同時に、正直なところちょっとばかり困惑してしまいました。
もともと第1版発行直後から内容の不足や構成の不適切さは感じており、もっと練り込んだ内容の改訂版を出したいという思いはありました。そのため本当は、10冊ほど身内に配ったらすぐに改訂作業に入ろうと思っていたのですが、電算化など色々あって着手は遅れに遅れ、モタモタしているうちに不親切かつ不可解な内容に悩む不幸な読者をだいぶ増やしてしまったようです。
第1版は「早大版 アニメーション撮影技法」というタイトルが示す通り、早大アニメ研の名物芸などの特殊事情を紹介するところに力点が置かれており、ある程度の撮影技術を備えたサークルのステップアップを狙った内容になっていました。ところが、周囲を見ると、この冊子に対する要求が、新人教育にも使えるようなもっとベーシックな内容にあることがわかってきました。
そこで、第2版の改訂の課題は、
・コピースタンドを標準とした内容の一般化
・前回積み残したケース・スタディの増量
・構成の見直し
・ビデオカメラ運用のサポート
以上のようなところに定めてみました。これなら、素人でも見よう見まねで何とか撮影に取り掛かれるのではないかと思ったのですが・・・。
ところが、いざ今年に入り改訂に取り掛かってみると、コンピュータのサポートが加わったため、本書のビジョンは当初とはさらに異なったものへと変化していました。
まだうちでも電算化は試行錯誤の段階にあり、人様に指南できるほど偉いわけではないのですが、しかし8ミリの絶滅が急速に進む中で、せめて現在の成果だけでも何らかの解説を行うことは急務でした。冬コミケ版ではギリギリまで「東京の空の下」に関わっていたため、全面改訂は断念して付録としてこの解説を設けるにとどめましたが、第2版ではこれを全面的に本体に組み込み、編集ソフトでの特殊効果の取り扱いに関しても少しだけサポートしてあります。
それにしても、執筆を決意した「ソの夢」の完成時点から数えると、もう1年半もこの計画に携わっていることになります。その間にも技術転換は発生するし、大学3年生は5年生になっているし、時間の流れとはあまりにも早すぎます・・・。
思いおこせばアニメーションの世界に飛び込んだ5年前、果たして自分に何かが残せるかと考えたりはしましたが、まさか自分が8ミリに止めを刺す役割に回るとは思ってもみませんでした。いま「東京の空の下」の8ミリによる予告とコンピュータによる本編を比べたとき、未来を手に入れた喜びを感じると同時に、失ったものに対して罪深さを感じずにおれません。8ミリのあの優しさと柔らかさは、いつか取り戻せる日が来るのでしょうか・・・?
あと最後に、本書の戦略的な位置付けについても少し述べておきたいと思います。この冊子は、第一に部内での伝承を目的に書かれていますが、同時に、この冊子の配布は、部内での伝承が断絶した場合に対する安全策も兼ねています。もし断絶が発生しても、技術を普及させてあれば外部から再び導入することができるのではという期待があるのですが、どうでしょうか・・・。また、サークル間で技術競争が発生して総合的に技術がレベルアップするということも、ちょっと楽しみにしていたりします。新技術というものは、最初の一撃までは秘密のほうが楽しいですが、出来上ってからは共有するほうがもっと楽しめると思いますから。
なお、この文書はインターネットWWWサービス上でも全文公開されています。印刷配布は大変面倒なので、こちらから各自入手、印刷して頂けると助かります。
場所は以下の通りです。
http://www.aplix.co.jp/nabe/wafl/
そんなわけで、疑問や間違いがありましたら、ぜひ渡辺までご連絡ください。連絡先は下記までお願いします。
最後に、この素晴らしい技術チャレンジの機会を与えて下さった堺さんと秋山さん、そして早大アニメーション研というサークルと素晴らしい撮影機材を残して下さった小野木さんに感謝します。
本冊子もいよいよコンピュータ関係に比重が高まり、コンピュータ編だけで独立した冊子ができそうなボリュームになってきました。撮影技術面の方はだいたいこれで揃ったかなと思うのですが、コンピュータ面は驚くべき速度で状況が変化しており、このままではこの冊子も「季刊・アニメーション撮影技法」になりかねません。
「マルチメディア」の名の通り、コンピュータはペーパーやセルの物理的素材、デジタル彩色、3D等を統合するシステムであり、解説の範囲を広げるとこれらをみんなサポートしなければならなくなってしまいます。
現在、すでに本冊子の一部はMediaStudioやPremiereの解説書となりかけていますし、これ以上ボリュームが増えるなら、内容を適当なところで切り分けていく必要を感じています。しかし、冒頭にもある通り、ノンリニアビデオの時代になっても、8ミリ時代の基礎概念を忘れてはならないというコンセプトもあり、どのあたりで切り分けるかが難しいところです。
それから、「出版してしまえばいいのでは」という意見も時に頂きます。でも、実のところ市場に流して平気でいられるほどには、この冊子に自信があるわけでもありませんし、あまりにマイナーな分野のため1000部も売れない気がするので、こういうものはインターネットでばらまくに限ると考えています。
いずれ、本書も印刷物という形態での配布はやめて、全部CD-ROMでの配布に切り替えてしまいたいと思っています。印刷屋に出す場合、カラー画像とモノクロ画像の取捨選択が面倒であり、また半年毎の頻繁なアップデートに耐えられそうにないからです。また、文書で説明するより、動いているサンプル映像を付ける方がずっとわかりやすいのも事実です。それには、スタイルシートを装備したWWWブラウザの普及を待たねばなりませんが・・・。
これからもう数年、コンピュータでのアニメ製作がどこにでもある当たり前なものになるまで、本書のアップデートは続くと思います。各大学の事情を取材する第3版なんて机上計画もあることにはありますが、大体内容は揃ったので、これから先は気長にいじっていこうと思います。お気づきの点、導入事例など、紹介できるお話がありましたらぜひ教えてください。
それでは、また。
今回はアニメ研の初期作品集ビデオの販売が重なるなど夏期休暇にもかかわらずスケジュールは多忙を極め、図らずも今回はアップデートが1回休みの格好になってしまいました。
今回第3版への改訂で「撮影技法」シリーズを最終形態に持っていきたいと思っていたのですが、もう半年時間が出来たので、ゆっくり見直してさらに充実を目指したいと思います。
次回予告ということでネタを紹介しておきますと、まず第一部全般について「Feather2」で得たノウハウを盛り込んだ内容強化、第二部はソフトウェアの標準サンプルをMediaStudioに変更のうえ、データ整理などの体系化と効率化についても触れたいと思っています。
また、本書でサンプルにしている「ソの夢」「東京の空の下」の二作品について、作品のカットと時間をそのまま本書の索引にしてしまうという新システムを予定しています。ああ、画像撮りが面倒臭そう。
そんなわけで、また。
ごめんなさい、ほとんどどこも変わってません。だって、この半年色々あったんです〜。
この版からは、印刷時間を少しでも稼ぐためにページを縮小して詰め込み印刷しています。もっと早く気付けばよかったです・・・。