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アニメーション撮影技法
第2版

はじめに

 1995年12月にアニメーション研究会連合の上映会で発表された堺礼彦氏の作品「ソの夢」は、見た目は地味ながらも、かつてないほどの高等な撮影技術と精度を要求する作品でした。この作品と共に早大アニメ研の撮影技術は急激な進歩を遂げ、この作品の完成と共に早大アニメ研の撮影技術は一つの頂点に達したと言ってもよいでしょう。
 その達成の証として、私達は昨夏に「アニメーション撮影技法」という冊子を作成することになりました。
 しかし、技術と知識の結晶だったはずの第1版は、たった1年の間に使い物にならない時代遅れなものになってしまいました。
 あと3年は先だろうと思っていた8ミリ機材の絶滅が、予想よりもかなり早く始まったためです。各団体の間で機材の故障の話が相次ぐ中、当会でも95年冬には映写機が録音不能になり、96年夏にZC-1000が修理不能と診断され、あっという間にアマチュアアニメーションの主役であった8ミリ機材は絶滅の危機に瀕することとなったのです。

 そこで当会は1997年12月、「東京の空の下」製作に際して、実験中だったビデオカメラとコンピュータで画像を記録する新システムを急遽実戦投入することになりました。この成功によって、コンピュータの有用性と将来性は広く認識されるところとなり、ビデオとコンピュータを併用するこのシステムは、研究会連合においてもメディア転換のモデルケースとしての地位を確立することとなったのです。

 いまや、研連上映会においても7割近くの団体がビデオまたはコンピュータを導入し、残る団体もほとんどが今年中のコンピュータへの転換を計画しています。この状況を踏まえ、この冊子も当初予定されていた内容補足に加え、新メディアに対応した大改訂を図ることになりました。
 それでも、この冊子では基本的に8ミリをベースに解説を行っています。 これからアニメの撮影を志す人にとって、今更8ミリという選択は不可能に近いのではないかと思われますが、撮影技術の正しい理解のためには、そのルーツであるところの8ミリ映画フィルム及び銀塩写真への理解が必須であると考えるためです。
 すべての作品が、その持てるポテンシャルを最大限に発揮できるように、この冊子が役立つことを願っています。

1997年8月17日 早稲田大学アニメーション研究会 渡辺邦統

97年冬の増刷にあたって

 この冬は、細部の調整と共に、コンピュータ撮影の基本的概念が従来とかなり異質なものであるという一般認識を踏まえ、2-2章(原理)を設けてノンリニアビデオ編集一般の解説を行ってみました。あと、今回の配本からは、あまりに印刷が面倒なため、CD-ROM版の販売も試みています。また、CD-ROM版では、インターネットでは不可能だったビデオのサンプルも添付できるため、さらに明解な技術解説が可能になったと思います。

 「東京」よりたった1年でコンピュータは研連のほとんどの団体に普及し、いまやアマチュアアニメにとっては絶対不可欠な存在となりました。各団体ではすでにその方向性に基いてさまざまなバリエーションが開発され、8ミリの代替や実験というレベルを飛び越え、アニメの新しい表現の可能性を狙う新次元に突入しています。業界においても「もののけ姫」をはじめとするデジタル化へのチャレンジが行われていますが、デジタルという新しい心臓を得たアニメがどこへ向かうのか、今のところ誰にも予測はつきません。きっとアマチュア側からも、世界があっと驚くようなアニメが登場してくると思います。

 すでに、各団体の好奇心溢れるチャレンジの前にあってはこの「撮影技法」の先進性も失せてしまいましたが、それでも、これからアニメの世界に飛び込んでみようとする方にとっての有用性はまだ失っていないと思います。この冊子が初めてデジタルアニメに触れる皆様の力となることを願っています。

1997年12月29日 早稲田大学アニメーション研究会 渡辺邦統

98年夏の増刷にあたって

 今夏は最終版の第3版発行をと思っていたのですが、夏休みの過密スケジュールに負けてしまい、次回送りにせざるを得ませんでした。
 そんなわけで今回の版は難解な説明の見直しと、コンピュータ関連の若干のアップデートしか行っていません。CD-ROM版には前回ソフトの不調で泣く泣く断念したサンプル映像「ソの夢」「東京の空の下」を収録しています。
 今年に入り業界ではますますアニメのデジタル化が進んでいますが、いずれもスカスカした質感のものばかりで失望を禁じ得ません。現状のところデジタル=低予算という図式が成立しているというのは実に悲しむべきことです。
 デジタル化されたアニメに何が欠けているのか、それを知るためにはやはりアナログ時代に立ち戻って考えてみる必要があるように思われます。デジタルアニメーションも大部分はアナログ技術の模倣であるわけであり、模倣ではない本当の映像表現力を手に入れるためには、やはりフィルムを知らなければなりません。(強引)
 この冊子が、人と映像のあり方を考える一助になればと思っています。

1998年8月16日 早稲田大学アニメーション研究会 渡辺邦統

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