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第4章 色とフィルター

 電球による照明は、かすかに温かい感じがして人間の心を落ち着かせます。さて、ここでピキーンと来た貴方はすかさずシャッターを切ったとします。しかし、大抵の場合、この写真はまともに撮れません。かすかな温かみはどぎついオレンジに変わり、現像してみると非常に下品な発色にがっかりしてしまうことがよくあります。
 また、教室やオフィスで撮った写真も、緑がかかった「警視庁25時」の盗撮スクープみたいな画像になってしまいます。これもみな、人間の視覚が補正していることを自覚していないが故に発生する問題です。
蛍光燈の光がこんなに緑がかっていることに人は気付きません。
これは外灯の下で花火の煙に巻かれながら撮ったもの。 写っているのはうちの会員。

色温度

これを説明するために、「色温度」という概念が用いられます。富士フイルムの資料からの受け売りになりますが、「色温度」とは

あらゆる波長の光を完全に吸収するような、理想的な黒体を熱してゆくと、暗赤色から橙、黄、白熱、さらには青味の強い光に変化していきます。そのときの光の色組成を絶対温度の単位K(ケルビン)で示したものを、色温度とよんでいます。

 と、まあこういうものです。この色温度指標によると、黒白用写真電球は3150K、昼間の太陽光は5500K、日影で青空そのものの光を受けた場合は25000Kに相当するといわれます。
光源 色温度 ミレッド値
自然光 清澄青空光
晴天天空光
快晴 北向空 青空
もやの多い光
全曇天天空光
日陰、遠景、空中撮影
平均昼光(太陽光+青空光)
朝・昼の日陰
朝・昼の屋外
25,000-27,000
12,000-18,000
10,000-12,000
8,000-10,000
6,500-7,000
6,500-7,000
5,000-6,000
5,000-6,000
4,400-5,400
40-37
83-55
100-83
125-100
154-143
154-143
200-167
200-167
227-263
人工光 ストロボ
ブルー・フラッドランプ(カラー写真電球)
クリアー・フラッドランプ(写真電球)
タングステン電球
6000-6500
5000-5500
2800-3400
2600-2800
167-154
200-182
342-394
384-342

色の指標・ミレッド値

 ここに表で挙げた色温度ですが、実用上問題があります。色温度の差は、発色の差と比例しないのです。昼光の5500Kと6000Kではほとんど違いがありませんが、電球の3200Kと3700Kではかなり色が違います。そこで、色を基準にした指標が「ミレッド値」です。富士フィルムとケンコーのフィルターはこのミレッド値で濃度を示しているので、LBB-8フィルターとLBB-4フィルターを重ねるとLBB-12相当になるといった単純な足し算によって色を調整できるようになります。
 ミレッドとは、1000000÷(色温度)で求められる値で、富士やケンコーのフィルターの濃度はこれを1/10した値になっています。
 電球と昼光色の補正にはLBB-12(ケンコーならC12)を使用すると前の章で述べましたが、これを検算してみましょう。
 いま手元にある東芝の写真電球は3150Kなので317ミレッドに、昼光色の基準である5500Kは182ミレッドになります。引き算すれば135ミレッド、10で割ると13.5。だいたい合っているようですね。

 実際にフィルターがどのように働くかを見てみましょう。
 夕方の光や電球の照明は、図のように赤の側の光が強く、青の方が弱くなっています。これに対し、電球を昼光色に変換するLBB-12フィルターは、青はそのまま透過して、赤を減衰する仕組みになっています。これで電球の光を濾過すると、昼光色と同じく全波長が均一にそろった発色が得られるわけです。
富士フイルムの資料よりLBBのフィルターの特性表。青を透過し赤を制限している。

 もし、電球の発色を電球らしく表現したいときは、経験的にいえばLBB-6あたりを使用すると赤味が少し残るようになって、期待通りの温かい発色が得られます。

色温度では解決できない光源

 蛍光灯や水銀灯の色のずれは、この色温度では説明できません。この種の光源は放電による発光のため、ある波長だけが突出するという著しく偏った分光分布を示します。そのため、こういった光源には専用のフィルターを使用します。
体育館の水銀灯下では世界が緑色になってしまう。

 但し、蛍光灯の発色はメーカーやモデル毎にかなり異なるものであり、フィルターメーカーの製品は平均を採った汎用品に過ぎません。そいういうわけで、こればかりは撮って現像してみなければわかりません。
 余談ながら、天体写真用に水銀灯の「光害」を防止するフィルターというものが存在します。これも水銀灯の波長のみを吸収するフィルターなのですが、1枚5000円から1万円というお値段にたまげた覚えがあります。

 秋葉原の電球の専門店に行ってみると、特殊用途に何十種類もの蛍光灯が発売されています。面白かったのが、肉屋用に特別に開発されたという蛍光灯で、赤の特別な波長を強化してあるから肉がとってもおいしそうに見えるのだそうです。私は肉屋に騙されていたのでしょうか・・・。
 その中で、色評価用(AAA型)蛍光灯というものがありました。これは博物館とかアトリエとかで使用される蛍光灯だそうで、何と正確に昼光色を再現できるというものです。おもしろそうなので学習スタンドにこれを取りつけてみましたが、写真にとらないことには肉眼では違いがわからないのでありました。(笑)お値段は、隣のノーマル蛍光灯のほぼ2倍でした。また、業務用なので、家庭用みたいな円形のものは売っていなかったようです。
 これがあれば、撮影時の高熱に悩まされることもない、と一瞬考えてしまったのですが、30W蛍光灯は電球では100W相当なので、1000W分確保するためにはこれを左右に5本ずつ並べなければなりません。これでは光源の上下幅が広がりすぎて写り込みの危険性が高そうです。残念ながら実用になりませんね。

参考書籍

 このフィルターと色に関しては、非常によくできた解説書があります。富士フイルム発行の「FUJIFILM FILTER GUIDE」という小冊子で、50ページ強しかありませんがお値段は1500円もします。全ページカラーだし、性格上印刷も厳密に行っているのでしょうから、このお値段も納得できなくもありませんが、一番の原因はやっぱり部数の少なさなんでしょうね。私はこれをビッグカメラで入手しました。
これさえあれば色制御は完璧?
富士フィルターガイドは大手写真店にて取り扱い中。

 あと、月刊「コマーシャルフォト」を出している玄光社による「フィルター撮影ハンドブック」は、特殊効果フィルターも含めた(普通こちらがメインなのか?)豊富な実例でとても参考になります。これを読破すれば、もう貴方は後戻りのできないフィルターマニアです。(笑)


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